【FP向け】「おひとりさま」のライフプランでFPが提案できること

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FPFPになりたい人FPビジネスおひとりさま(シングル、独身の人)ライフプラン(生活設計)

日本FP協会の「FPジャーナル」2023年11月号では、「『おひとりさま』のFP相談に強くなる」と題した特集が掲載されました。
「おひとりさま」のライフプランについては、2022年4月号でも特集が掲載されていて、関心の高まりがうかがえます。

これまで、FP資格の学習の過程では夫婦と子供からなる家庭のライフプランが中心となっていました。また、実際に「おひとりさま」がFP相談に来られることは少なかったかもしれません。

しかし、これからはすべての世帯に占める一人暮らし世帯の割合が増えていきます。「おひとりさま」がFP相談に来られることも多くなるでしょう。

そこで今回は、おひとりさま専門のFPが、すでにFPとして活躍されている方やこれからFPを目指す方に向けて、「おひとりさま」のライフプランで提案できることの一例をご紹介します。

1. そもそも「おひとりさま」とは

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「おひとりさま」とは、独身の人やひとりで暮らす人を指す呼び方の一つです。

もともと「独身者」や「単身者」と呼ばれていましたが、「おひとりさま」や「シングル」と呼ばれるようにもなっています。広い意味では、一度は結婚したものの離婚した人やお連れ合いに先立たれた人も「おひとりさま」に含まれます。

このブログでは、他の記事も含めて「おひとりさま」、「シングル」、「独身の人」といった言葉を使い分けるか併記しています。

ここでは、結婚していない人、特に30代後半以降で「このままずっと一人かも」と思い始めている人に着目します。この人たちが抱えている課題と、その課題に対する解決策を知っておくことで、離婚した人や死別した人についても応用できると考えています。

1-1.結婚が当たり前ではなくなった

かつては、男女ともに結婚することが当たり前とされていました。昭和から平成の初めごろまでに生まれた人は、だいたいそのように聞いて育ってきたのではないでしょうか。
FPの相談事例でも、夫婦と子供がいる家庭を前提にしていることが多いです。確かに、これまでは結婚して家庭を持つ人が多数派でした。

しかし「おひとりさま」という呼び方が生まれてきたように、年齢を重ねても独身で通す人が増えつつあり、当たり前とされていた結婚が当たり前ではない時代になっています。

結婚が当たり前ではなくなった現状を映すデータとして、「50歳時の未婚割合」というものがあります。2020年時点の「50歳時の未婚割合」は、次に示すとおりです。

  • 男性 28.25%
  • 女性 17.81%

(出典:国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2023)改訂版」)

大ざっぱに言えば、50歳の時点で、男性のおよそ4人に1人、女性のおよそ6人に1人は結婚したことがないということになります。

なお、2040年の「50歳時の未婚割合」は、男性で29.5%、女性で18.7%と推計されています。
(出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(2018(平成30)年推計) 45~49歳と50~54歳の未婚率の平均値を算出)
緩やかに増加することはあっても、減少に転じることはないと考えられています。

「50歳時の未婚割合」は、以前は「生涯未婚率」と呼ばれていました。

1-2.今後は男性「おひとりさま」への対応も求められる

これといった根拠を示すことはできませんが、「おひとりさま」といえば、女性を指して言うことが多いように思います。私個人の感覚でも、「一生ひとりかも」ということが心配になってFPに相談に来られる方は女性のほうが多いです。

しかし、「50歳時の未婚割合」は男性の方が多く、今後は男性の「おひとりさま」への対応も求められるようなるでしょう。

おひとりさまは、「病気のときに看護や家事をしてくれる人がいない」ケースや「悩みを聞いてくれる人がいない」ケースが多いですが、女性に比べて男性の方がその傾向が顕著です。
(出典:「中年未婚者の生活実態と老後への備えに関する分析-「単身世帯」と「親と同居する世帯」の比較-」(藤森克彦、Web Journal『年金研究』No.15))

このように、男性の「おひとりさま」は何か困ったことがあっても助けを求めない、あるいは助けを求めることができない傾向が強いと考えられます。そのため、本人の病気や離職、親の介護などをきっかけに、一気に苦しい状況に追い込まれる可能性があります。

2.「おひとりさま」のライフプランの課題・FPが提案できること

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ここからは、「おひとりさま」によくあるライフプランの課題を取りあげ、FPが提案できることについて考えます。

2-1.参考になる人が身近になくどうすればいいかが見えない

まず取りあげるのは、おひとりさまは「参考になる人が身近になくどうすればいいかが見えない」という点です。

おひとりさまに限ったことではありませんが、FPに相談に来られる方の中には、他の人がどうしているかを聞いてみたいという方もおられます。おひとりさまの場合は、他のおひとりさまがどうしているかがわかりづらくて、どうすればいいかわからない傾向が強いと考えられます。

自身がどのような生活をしたいか考えてもらう

ライフプランを考えるときにどうすればよいかわからない「おひとりさま」に対しては、まず「自身がどのような生活をしたいか考えてもらう」ようにできればよいでしょう。このときは、家族や世間がどう思うかといったことはひとまず考えないようにします。

そのうえで、ライフイベント表やキャッシュフロー表(CF表)を作ってみるとよいでしょう。

2-2.ライフイベントが少ないので目標を立てにくい

次に取りあげるのは、「ライフイベントが少ないので目標を立てにくい」という点です。

この先結婚するつもりがないとすれば、結婚のほか出産、育児、教育といったライフイベントはありません。退職や老後までライフイベントがないことから、30代の方がお葬式代の心配をするケースも見られます。

数年先の目標づくりを提案する

ライフイベントが少なくて目標を立てづらい「おひとりさま」に対しては、「数年先といった近い将来に目標を置く」ことを促せればよいでしょう。

数十年先の老後のことだけを考えると、目標が遠すぎてどうしていいかわからなくなってしまいます。小さなことでもいいので、近い将来に目標を置いてそれを目指していきましょうという提案です。
転職や独立といった生活に大きな影響を及ぼすできごとでなくても、服を買いたいとか旅行に行きたいとか、趣味にお金を使いたいとか、そういったことでも構いません。

もう一つ、考え方があります。
「一生ひとりかも」と思っていても、どこかのタイミングで「ご縁」ができることがあるかもしれません。そのような状況や心境の変化に備えるという視点で、財産形成を促してみることもできるでしょう。
これは、結婚するかどうか迷っている人や、本当は結婚したいけど一生ひとりで生きていくときのことも考えておきたいといった人に向けた提案です。

ライフプランの基本は、自分がどのような暮らしをしたいかを考えてお金を貯めていく、という順番です。しかし、目標が定まらないのであれば、「お金の使いみちは貯まってから考える」という考え方でもよいかもしれません。

2-3.過剰な消費・家計防衛に走るケースがある

「どうすればいいかわからない」ことや「目標を立てにくい」ことが原因で、過剰な消費をしたり、逆に過剰な家計防衛をしたりと、行動が極端になることがあります。

過剰な消費とは、たとえば、クレジットカードを使い過ぎるとか、多重債務ができるといったことで、過剰な家計防衛とは、節約のし過ぎであったり、必要以上に保険に入ったりといったことです。

行動の背景にある不安を明らかにする

こうした極端な行動の背景には、現在または将来の生活に対する漠然とした不安があります。

行動の背景にある不安を明らかにしたうえで、過剰な消費については、今までのことを責めたりしないで、これからどうするかを中心に考えるとよいでしょう。過剰な家計防衛については、もう少し無理のない形で実行できる計画を立てられるとよいでしょう。

ひとりで暮らす「おひとりさま」は、過剰な消費や家計防衛をしても周りに止める人がいないので、問題に気づきにくい場合があります。

2-4.身軽さから親の介護を一人で担うケースもある

「おひとりさま」は養う家族がおらず「身軽」であるとされていることから、親の介護を一人で担う可能性が高くなります。

兄弟姉妹がそれぞれ家庭を持っていると、おひとりさまに「お願いね」ということになりがちです。また、おひとりさま自身が「私がやらなければ」と思い込むケースもあります。

親の介護に直面したときにどのようなことが起こるか例示する

いざその時にならないと気がつかないものですが、親の介護がおひとりさま自身のライフプランにも影響することを早めに指摘しておいたほうがよいでしょう。

親の介護費用を負担したり、介護のために離職したりすると、一時的には良くても、ゆくゆくは経済的に破たんする可能性があります。方向性としては、介護費用は親の財産の範囲内でまかない、介護離職は避けるように何とか知恵を絞りたいところです。

2-5.遺産相続が複雑になる

配偶者と子供がいない「おひとりさま」は、亡くなったときの遺産相続が複雑になることがあります。

兄弟姉妹やおい・めいが相続するケースが多いほか、相続人がいない場合は身の回りの世話をしていた人など(特別縁故者)が遺産を受け継ぐケースもあります。それでも引き取り手がいなければ、遺産は最終的に国に納められることになります。

家族関係を確認して対策を促す

遺産相続については、おい・めいが相続人になることを知らなかったり、いとこも相続できるというように誤解されたりするケースもあるようです。

機会があったときで構いませんが、「おひとりさま」の家族関係を確認したうえで、誰が相続人になってどういった対策が必要になるかを伝えておくとよいでしょう。遺言書を書いて、できれば遺言執行者も決めておくといったことも提案できます。

3.「おひとりさま」の相談にはどのように応じればよいか

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続いて、「おひとりさま」の相談にFPがどのように応じればよいかについて考えます。

おひとりさまが相談に来られることが少ないと、どのように接してよいかがわからないというFPの方もおられるかもしれません。
ただ、おひとりさまへの対応といっても、決まった方法があるわけではありません。相談に来られた方が置かれた状況をくみ取り、「傾聴」の姿勢で臨めばよいと思います。

一方で、残念なことですが、おひとりさまがFPに相談して不快な思いや寂しい思いをしたといった事例もあります。
もはや結婚することは当たり前ではなくなっていることを念頭に、話し方を工夫してみるといったことはあってもよいでしょう。中には厳しい状況に置かれている人もいるかもしれませんが、悲観的にならずに取りうる対策を一緒に考えていく姿勢が求められます。

また、これはできる範囲で構いませんが、質問紙やライフイベント表、CF表について、「おひとりさま」向けの書式を用意するといった対応も考えられます。人によって受け取り方はさまざまですが、埋める欄が少なくて寂しい思いをされる方もいらっしゃいます。

「おひとりさま」の中には、「年を重ねて世帯も持っていないのにFPに相談していいのだろうか」と、引け目を感じておられる方もいらっしゃいます。私もFPになる前はそのように感じていました。
たとえば、ホームページやSNSなどの媒体に、おひとりさまの相談も受け付けていることを明記したり、おひとりさまの相談事例を掲載したりといったことができれば、おひとりさまも相談しやすいでしょう。

4.「おひとりさま」のライフプランを考えるときに役立つ雑誌・書籍など

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最後に、「おひとりさま」のライフプランを考えるときに役立つ雑誌・書籍をご紹介します。

4-1.FPジャーナルの特集記事

日本FP協会の「FPジャーナル」では、以下の号でおひとりさまのライフプランについて特集が組まれています。

  • 2023年11月号 「おひとりさま」のFP相談に強くなる
  • 2022年4月号 “おひとりさま”のライフプランとリスクへの備え

2023年11月号では、家計や住まい、老後のことなど、おひとりさまが抱える課題とその解決方法について詳しく解説されています。
2022年4月号では、おひとりさまを取り巻く状況を解説したうえで、さまざまな立場のおひとりさまを想定したケーススタディーが掲載されています。

日本FP協会の会員の方は、お手元のバックナンバーや「Myページ」の「FPジャーナルONLINE」をご覧ください。

2022年4月号のケーススタディーでは、私もコメントしております。

4-2.「おひとりさま」のライフプランを解説している書籍

おひとりさまのライフプランについて、より実践的な考え方をご覧になりたい方は、「おひとりさま」に向けて書かれた書籍が参考になります。

ここでは、2022年に発行された書籍を2冊ご紹介します。

5.まとめ

ここまで、FPの方に向けて、おひとりさまのライフプランで提案できることの一例をお伝えしました。

これからも未婚の人は増えていくでしょうし、離婚や死別でひとりになった方も、平均寿命が延びていることで、ひとりで暮らす期間は長くなっていきます。「おひとりさま」がFPに相談したいと思うことも多くなるのではないでしょうか。

私は2015年からおひとりさま専門のFPとして取り組んでいます。しかしながら、力が及ばず多くのお客様の需要にこたえることができていません。

これを機会に、経験豊富なFPの方もこれからFPになろうとしている方も、「おひとりさま」のライフプランにも目を向けていただきたいと思います。そうしていただくことで、より多くの「おひとりさま」がFPに相談できるようになるでしょう。


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