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亡くなった後に誰に財産を継いでもらいたいかは、遺言書で伝えることができます。
特に、配偶者や子がいない場合や、誰か特定の人に財産を継いでもらいたい場合には、遺言書を書いて生前に意思表示をしておく必要があります。
遺言書は主に、自分で書くか公証人に作成してもらうかの二通りの方法で作成しますが、それぞれ長所と短所があります。
今回は、遺言書を書く2つの方法の違いをご紹介します。
1.遺言書とは・遺書との違い
遺言書とは、自身が亡くなった後に誰にどれだけ財産を継いでもらうかを意思表示するための書面です。(遺言書ではこのほか、子の認知など身分にかかわる事項を指定することもできます。)
遺言書に書かれた内容は、書いた本人が亡くなった後に実行されます。本人が自分で手続きできないだけでなく、内容があいまいだった場合に本人に真意を確認することもできません。
トラブルを防いで本人の生前の意思が実現されるように、遺言書の書き方は法律で定められていて、法律に基づいて書かれた遺言書には法的な効力があります。
遺言書と似たものに「遺書」がありますが、遺書は生前の気持ちを書き表した手紙です。家族や周りの人たちへ思いを伝えることはできますが、財産の分け方について書いたとしても法的な効力はありません。
2.遺言書の種類~主なものは2種類~
遺言書には主に2つの種類があります。
- 自筆証書遺言:自分で手書きで書く遺言書
- 公正証書遺言:公証役場で公証人に作ってもらう遺言書
このほか、秘密証書遺言や特別方式の遺言(危急時遺言、隔絶地遺言)もありますが、通常は上記の2種類だけ知っておけば十分です。
次の章から、自筆証書遺言と公正証書遺言の特徴をお伝えします。
3.自筆証書遺言は手書きで書く遺言書
自筆証書遺言は、自ら手書きで書く方式の遺言書です。
公正証書遺言に比べると費用をかけずに手軽に作成できますが、遺言書が無効になったりトラブルが起きたりする恐れがあるので注意が必要です。
3-1.原則として全文を自筆で書く
自筆証書遺言は、その名前のとおり、原則として全文を自筆で書かなければなりません。パソコンで作成して印刷したものや印刷していない文書ファイルは、自筆証書遺言としては無効です。
今の社会では手書きで文字を書く機会が少なくなっているため、長文の遺言書をすべて手書きで書く作業は思ったより大変かもしれません。
なお、2019年には要件が緩和され、財産の目録については、パソコンで作成したり通帳などのコピーを添付したりできるようになっています。この場合は、それぞれのページに署名・押印が必要です。
3-2.望んだとおりに財産が引き継がれない恐れがある
自筆証書遺言を正しく書かないと、望んだとおりに財産が引き継がれない恐れがあります。
たとえば、必要事項が書かれていないために遺言書が無効になったり、遺言の内容があいまいで残された人の間でトラブルになったりする場合があります。
自筆証書遺言には、遺言の本文のほか、日付、氏名を書かなければなりません。また、押印も必要です。遺言書にこれらの事項がなければ、無効になる恐れがあります。
また、遺言の対象となる財産や、その財産を継いでもらいたい人は、正確に書かなければなりません。
相続人となる弟に財産を継がせるつもりで「私の預金は弟に相続させる」とだけ書いても、遺言書を見た人はどの銀行の預金口座を引き継げばよいかがわかりません。預金口座が複数ある場合や弟が2人以上いる場合では、どのように遺産を分けてよいかが伝わらず、望んだ内容とは異なる方法で財産が引き継がれるかもしれません。
このような遺言がただちに無効になるわけではありませんが、遺言の解釈をめぐって裁判になる場合もあります。
預金を継がせたいのであれば、対象となる預金口座の情報を詳しく書くか、財産目録をつけるようにしましょう。預金を継がせる人についても、単に「弟」とだけ書くのではなく、名前や生年月日も書くようにしましょう。
3-3.自分で書く場合は遺言書作成キットが便利
自筆証書遺言は自分だけで書くことができますが、無効になったりトラブルが起きたりしないように、弁護士や司法書士など専門家に相談して書くことをおすすめします。
しかし、そこまで手間をかけたくないとか、たとえ専門家でも他の人には遺言の内容を知られたくないといった理由から、何とかして自分だけで遺言書を書きたい場合もあるでしょう。
そのようなときは、「遺言書作成キット」を使うと便利です。
この遺言書作成キットには、次のとおり遺言作成に必要なものが入っています。
- 遺言の書き方の解説書
- 遺言書専用用紙(2枚複写)5組
- 下書き用紙2枚
- 保管用封筒1枚
- 法務局に保管申請するための申請書
- 遺言書作成WEB講座
- 遺言書作成に便利な書式集
3-4.法務局で保管してもらえる
自筆証書遺言を自宅で保管すると、誰かに遺言書を改ざんされたり、亡くなった後に遺言書を見つけてもらえなかったりといった心配があります。
遺言書を法務局に預ければ、こうした心配は解消されます。
2020年7月から、自筆証書遺言を法務局で保管できるようになりました。
法務局で保管すると、遺言書が改ざんされる恐れはなく、亡くなった後に遺言書があることを関係者に通知してもらうこともできます。
自筆証書遺言を法務局で保管するときは、1通あたり3,900円の手数料がかかります。
4.公正証書遺言は公証人に書いてもらう遺言書
公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。
作成に時間がかかるほか、手数料など費用もかかります。しかし、公証人が内容を検討して作成するため、あいまいな遺言内容でトラブルが起こる心配がありません。紛失の恐れもないほか、無効になることもほぼありません。
4-1.専門家が関与して作成
公正証書遺言は、法律の専門家である公証人に相談して文面を作成してもらいます。
そのため、書き方の不備で無効になる心配はなく、あいまいな内容でトラブルを招くこともありません。
自筆証書遺言のように手書きで書く必要がないため、財産を誰に継いでもらいたいかを公証人に伝えることができれば遺言書を作成できます。
公正証書遺言を作成するには、公証人のほか証人2名に遺言の内容を告げる必要があります。証人は自身で探してくるほか、公証役場で手配してもらうこともできます。
4-2.紛失・改ざんの心配はない
公正証書遺言は、通常、原本・正本・謄本が作成されます。
正本と謄本は本人が持ち帰りますが、原本は公証役場で保管されます。そのため、紛失や改ざんの心配はありません。
4-3.数万円の費用がかかる
公正証書遺言には無効や紛失・改ざんの心配がほぼありませんが、作成するために数万円の費用がかかります。
遺産を継がせる人数や遺産の額に応じた公証人手数料のほか、遺言書の枚数に応じた手数料が必要です。公証人が出張した場合には公証人手数料が割り増しになるほか、日当や交通費も必要になります。
5.おひとりさまは遺言書の作成が特に必要
ひとりで暮らす「おひとりさま」には、自身が亡くなったときに財産がどうなるかを気にされている人もいらっしゃるでしょう。
両親がすでに亡くなっていて、子や兄弟姉妹もいないおひとりさまには、法律上、財産を相続する人がいません。誰かに財産を継いでもらいたいのであれば、遺言書は必ず書いておかなければなりません。
法律上の相続人がいる場合でも、相続人以外の人に財産を継いでもらいたいのであれば、遺言書が必要です。
おひとりさまの財産を誰が相続できるかについては、下記の記事を参考にしてください。財産を継ぐ人が誰もいない場合、財産は最終的に国に収められることになります。
6.「遺贈寄付」も一つの方法
財産を継いでもらいたい人が特にいない場合や、財産を社会のために役立てたいといった気持ちがある場合は、「遺贈寄付」をすることができます。
遺言で財産を学校や各種団体に寄付すれば、教育や社会福祉に役立てることができます。ただし、受け入れ側の都合もあるので、寄付したい団体に前もって相談しておくようにしましょう。遺贈寄付する財産は、そのまま使える現預金をおすすめします。
7.まとめ
ここまで、遺言書の種類ごとの違いをご紹介しました。
2種類ある遺言書のうちどちらがよいかといえば、公正証書遺言が確実ですが、手間や費用をかけたくないのであれば自筆証書遺言でもよいでしょう。
- 自筆証書遺言:手間や費用をかけずに遺言を残したい人に向いている
- 公正証書遺言:専門家の助言のもと確実な遺言を残したい人に向いている
遺言書は何度でも書き直しができるので、一度自筆証書遺言を書いて、後から公正証書遺言を書いても問題はありません。