おひとりさまの相続対策~財産をつくるときに気をつけたいこと

資産形成のイメージ おひとりさま(シングル、独身の人)
おひとりさま(シングル、独身の人)相続

人が亡くなったときには、さまざまな手続きが必要です。死亡届を出したり葬儀をしたりといった手続きのほか、財産を相続するためにもさまざまな手続きがあります。
家族がいれば家族が手続きをしてくれると思いますが、おひとりさまはそれが期待できない場合もあります。きょうだい(兄弟姉妹)や甥・姪に負担をかけたくないとお考えの方もいらっしゃるでしょう。

今回は、おひとりさまの相続対策として、財産をつくるとき、残すときに気をつけたいことをご紹介します。
亡くなった人が持っていた財産でも相続の手続きが難しいものがあるほか、そもそも相続できないものもあります。誰かに財産を残すつもりがなくても、使い切る前に亡くなることもあるかもしれません。

大切な財産が行き場を失うことがないよう、生前に対策しておくことをおすすめします。

1.おひとりさまの遺産は誰が相続できるか

家系図の画像

はじめに、おひとりさまが亡くなったときに誰が遺産を相続できるのかを確認します。

遺言書で遺産を誰に継がせるか定めている場合は、その内容に従います。

遺言書がない場合は、家族構成によるさまざまな場合分けによって遺産を相続できる人が決まります(遺言書で定めていない財産がある場合も同様です)。
簡単にいえば、次のようになります。

  • 親が健在であれば、親が相続
  • 両親がともに亡くなっていれば、きょうだい(兄弟姉妹)が相続
  • きょうだいで亡くなっている人がいれば、甥・姪が相続
  • 上記にあてはまる人がいないときは、相続できる人がいないため特別な手続きが必要
  • 上記にかかわらず、離婚して子がいれば子が相続

ある程度年齢を重ねたおひとりさまが亡くなった場合は、きょうだいや甥・姪が相続人になることが多いでしょう。

きょうだいも甥・姪もいないという場合は、法律上、財産を相続できる人はいないことになります。しかし、家庭裁判所で一定の手続きを行うことで、身の回りの世話をしていた人などが財産を譲り受けることができます。
詳しいことは、「おひとりさまの遺産は誰が相続できるか~相続税と生前対策もご紹介します~」をご覧ください。

2.スムーズに手続きできるようにしておく

契約・押印の画像

おひとりさまが亡くなったときは、相続人や周りの人が手続きをすることになります。
しかし、きょうだいや甥・姪とは別々に暮らしていることが多く、生活の細かいことはわからないことが多いでしょう。親族がおらず、身のまわりの世話をしていた人が手続きをする場合は、さらに難しいでしょう。

相続人や周りの人が手続きをしやすいように、おひとりさまは何らかの形で意思表示しておくことをおすすめします。
ここでは、比較的簡単にできる「エンディングノートの記入」と、確実に手続きをしてもらいたい場合に考えたい「死後事務委任契約」をご紹介します。

2-1.エンディングノートに書きこむ

エンディングノートとは、自身が亡くなったときや意思表示ができない状態になったときに、自身の希望や各種手続きに必要な情報を伝えるためのノートです。

エンディングノートには、次のようなことを書いておきます。

  • どのような財産が、どこに(どの金融機関に)いくらあるか
  • 亡くなったときにその財産を誰にあげたいか(誰に引き継いでほしいか)
  • 亡くなったときにどのような手続きが必要か(公共料金、クレジットカードなど)
  • 亡くなったときに誰に連絡してほしいか
  • 葬儀はどのようにしてほしいか など

上記のようなことが書かれたノートがあって希望や必要事項が伝われば、家族や周りの人の負担もいくらかは少なくなるでしょう。

これらの事項は、自分で準備したノートに書きこんでもよいですが、希望や必要事項をもれなく伝えるためには、市販のエンディングノートに書きこむことをおすすめします。

おひとりさまFPが50歳になったのでエンディングノートを書いてみた」では、私が実際に書きこんだ体験をもとに、エンディングノートの書き方をご紹介しています。

エンディングノートには法的な効力はありません。エンディングノートに書いたとおりに手続きが行われるかどうかは、それを見た人の意思に委ねられ、必ず実現するとは限らないということを知っておきましょう。
遺産を誰に与えるかについて法的に有効な意思表示をしたい場合は、民法の規定に則った遺言書を書く必要があります。

2-2.専門家と死後事務委任契約を結ぶ

死後事務委任契約とは、自身の死後の手続き(葬儀や埋葬、親族・知人への連絡、電気・ガス・水道・賃貸住宅の解約や精算など)を第三者に委任する契約のことです。身寄りがいない人のほか、身寄りがいても負担をかけたくないといった場合にも利用できます。

「わざわざこのような契約をしなくても、遺言書に書けばいいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、遺言書では、遺産相続やそれにかかわる身分事項についてしか指定することができません。

葬儀・埋葬の方法や、残されたペットの引き取り先、誰に知らせてほしいといったことを遺言書に書いたとしても、法的な効力はありません。メッセージとしての意味はあるかもしれませんが、そのとおりに実現するとは限らないという点では、エンディングノートに書くことと変わりません。

死後事務委任契約では、契約書を公正証書として作成することで希望が確実に実現するというメリットがあります。
一方、契約の締結時や、亡くなった後に実際に事務を行うときに費用がかかります。事務を行うときの費用として事前に100万円程度のお金を預けなければならない場合もあるので、条件をよく確認しておくことが大切です。

死後事務委任契約をするには、弁護士や司法書士などの専門家に相談するとよいでしょう。金融機関や各種団体(社会福祉協議会や民間の団体など)が受け付けて、専門家につなぐケースもあります。

死後事務委任契約をめぐっては、残念ながらさまざまなトラブルが報告されています。監督官庁がなく統一したルールがないことや、契約金額が高額であることなどが背景にあります。
消費者庁は、死後事務委任契約で注意しておきたいことをまとめた資料を配布しているので、ぜひ参考にしてください。

「身元保証」や「お亡くなりになられた後」を支援するサービスの契約をお考えのみなさまへ(消費者庁)

3.相続が難しい財産(1) 海外の財産など

海外不動産の画像

財産の種類によっては、相続の手続きが難しいものや、そもそも相続ができないものもあります。
自身が亡くなったときの手続きをスムーズにできるようにしていたとしても、そのような財産があれば、家族や周りの人に思いがけない負担をかけるかもしれません。

この章では、相続が難しいケースの一つとして、海外に財産がある例をご紹介します。

3-1.海外の預金や不動産

国内で貯蓄をしてもあまり増えないという理由や、いろいろな種類の財産を分散して持っておきたいなどといった理由から、海外に投資をするケースもあるでしょう。

亡くなった人が「海外の株式や投資信託を国内の証券会社で買っていた」場合には、証券口座の相続手続きは必要ですが、それほど大きな問題にはなりません。
しかし、「海外の銀行に口座を開設して預金をしていた」場合や「海外の不動産を持っていた」場合には、相続の手続きが格段に難しくなります。

海外には、相続の手続きを裁判所の管理のもとで行う国があり(アメリカ、イギリスなど)、遺産を相続するのに数年かかるケースもあります。これらの手続きについて相続人や周りの人が自分だけで対応することは困難で、海外の財産の相続(国際相続)に詳しい専門家を探して依頼する必要があります。

なお、海外にある財産にも相続税が課税されます(亡くなった人と相続人が10年を超えて海外に住んでいるなど一定の場合を除く)。現地でも相続税にあたる税金が課される場合もありますが、その場合は日本の相続税から控除できます。

海外の預金や不動産を持っている人は、家族や周りの人の負担を軽減するために、専門家にあらかじめ相談しておくようにしましょう。
また、これから海外に財産を持とうとお考えの方は、こうした「海外資産の相続リスク」も頭に入れて検討されることをおすすめします。

3-2.海外の航空会社のマイル

航空会社のマイルは、飛行機の搭乗や各種サービスの利用実績に応じて貯まるもので、主に特典航空券に交換できます。

日本の主要な航空会社のマイルは、相続することができます。

  • JAL:法定相続人が相続できる
  • ANA:法定相続人が相続できるが、死亡日から180日以内に手続きをしないと失効

しかし、海外の航空会社のマイルは相続できないことが多いです。相続できる場合でも、海外の会社とやり取りをすることになり、手続きに手間がかかると予想されます。

海外の航空会社のマイルを貯めている人は、亡くなったときにマイルがどうなるか確認しておきましょう

4.相続が難しい財産(2) 暗号資産などデジタル遺産

相続が難しいケースとしてもう一つ、デジタル遺産の例をご紹介します。

デジタル遺産とは、パソコンやスマートフォンなどの機器に保存されたデータのうち、金銭的な価値に結び付くものをさします。ここでは、「暗号資産(仮想通貨)」と「電子マネー・ポイント」について取りあげます。

4-1.暗号資産(仮想通貨)

一時のブームは落ち着きましたが、暗号資産(ビットコインなどの仮想通貨)は投資の選択肢の一つとして定着しています。

亡くなった人が暗号資産を持っていたとしても、取引業者に預けていれば、その業者に届け出ると相続ができます。しかし、海外の業者など日本の金融庁に登録されていない取引業者の場合は、スムーズに手続きができないこともあります。
さらに問題になるのは、取引業者に預けないで自分で暗号資産を持っていた場合です。

暗号資産は、紙やハードディスクなどの形で、自分で持っておくこともできます。しかし、このような方法で暗号資産を持っていた人が亡くなると、パスワードがわからず暗号資産を換金できなくなってしまいます。
さらに困ったことに、暗号資産を換金できないとしても、暗号資産に相続税がかかってしまう可能性があります。

自分で暗号資産を持っておく場合は、亡くなった後に予期せぬトラブルが起こる可能性もあることを頭の片隅に入れておきましょう。

暗号資産の相続税についてはまだ法整備が進んでおらず、暗号資産が換金できない場合に実際に課税されるかどうかは定かではありません。ここでは「課税されるかもしれない」ということだけをお伝えします。

4-2.電子マネー・ポイント

電子マネー(○○Payなどスマホ決済も含む)や小売店やポイントサイトで貯まるポイントは、それぞれのサービスを提供する事業者によって相続できるかどうかが異なります。

電子マネーにチャージした残高は相続できることが多いですが、相続できないものも一部あります。
電子マネーの残高は、現金と同様のものとして遺産相続の対象になり、相続税も課税されます。

一方、小売店やポイントサイトで貯まる企業ポイントは、相続できないものがほとんどです。
一部の小売店では同居の家族に限り引き継げるようですが、おひとりさまの場合は当てはまりません。ポイントを貯めるのはほどほどにして、早めに使ってしまう方がよいでしょう。

5.残した財産がトラブルを招くこともあるので注意

ここまで、おひとりさまの相続対策として、財産をつくるとき、残すときに気をつけたいことをご紹介しました。

大切な財産も、どこにどれぐらいあるかを誰かに伝えておかなければ、亡くなった後に行き場を失ってしまいます。
また、財産を引き継ぐまでに何年もかかったり、財産をもらえないのに税金を納めることになったりというトラブルは避けたいところです。

特に、海外の財産やデジタル遺産がある場合は、事前に専門家に相談しておくか、トラブルを避けるために処分も考えるといった対策をおすすめします。


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